幼馴染の彼女は小学生の頃から徐々に耳が不自由になり、高校入学の頃には完全に聞こえなくなってしまった。
彼女は耳が聞こえなくても、『口が読める』ので普通の高校に私と通っていた。
彼女が完全に耳が聞こえなくなった時、手話を覚えなくてはならなくなって、その勉強に付き合っていたので自然に、私は手話を彼女と同時に覚えた。
そし て、聞こえないことで不自由する場合、私は何の感情も持たず、彼女の耳となることを当たり前と思って助けながら接してきた。
私と彼女は高校を卒業し進学したのだが、大学は別になり、お互い思うところあって別々の大学へ通うことになった。ある意味、私たちは家族よりも多くの言葉を『指』で話した。
私は大学のサークルで知り合った彼と付き合うことになった。
彼女は自分のことのように喜んでくれた。私に彼氏ができて、彼女は将来、翻訳の仕事がした いと言って、大学の勉強以外でも勉強をしなくてはならなくて、今までのように、2人で会うことがあまりなくなってしまった。
今まで、私たちはあまり異性に感情を持つことがなかった。
どんな時も、2人でいることのほうが楽しかったし、充実していたからだ。
何故、ここで私が彼と付き合うようになったかというと、私のことを、彼女以外の人が興味を持ってくれたということに、喜びを感じたからだった。
彼はとても優しい人だった。私のことを気遣い、同じ歳とは思えないくらい大人の部分もあって、彼と一緒にいる時間は、とても心地よいものだった。
その反面、私はというと、彼に対して素直になれない部分があった。私は今まで、彼女以外に自分自身を曝け出すこともなく、自分自身のことを話すこともなかったからだった。
正直、どうしていいかわからなかった。異性への好きという感情に戸惑っていた。
彼女には素直に伝えられることが、彼には伝えられない。彼に「どうしたの?」と言われると、私は黙ってうつむくことしかできなかった。
時には、気持ちとは正反対の言葉を口にしてしまう場合もあったり、意味もなく冷たくしてしまったりすることもあった。
そんな時、決まって彼は、黙ったまま、困ったような顔をするのだった。そうなると、私はその場にいるのが苦痛になり、何も言わず、立ち去ってしまうのだった。
彼と、楽しいだけではない時間を過ごすことが多くなって、そんな中で、彼女と会う約束をした。
久しぶりに会う彼女は、耳が聞こえなくても、そのハンディを正面から受け止めて、以前よりもはつらつとしていた。
私がいない場所で、彼女がちゃんと生活している、ということが、ちょっとだけ寂しい、などと思うくらいだった。
『久しぶり!元気だった?』
「うん。それなりに・・・・」
『・・・何かあるみたいね?(笑)』
「ははは・・・、わかる?」
『そりゃわかるよ。長い付き合いだもの。どうしたの?』
「彼にどうやって接したらいいかわからないの。」
『というと?』
「好きなんだけどね、冷たくしちゃったりするの。素直になれなかったり。」
『なるほどね。それ、何となくわかるわ。』
「え?」
『私と一緒にいた時間が長かったからかな。いつも私には何でも話すけれど、他の人にはそうじゃなかったじゃない?』
「え?そうだっけかな?」
『ふふ。(笑)そうだよ。どうしてだかわかる?』
「・・・わからないや。」
『私とは、言葉で会話できないからだよ。』
「え?どういうこと?」
『私とは手話で会話するでしょ?だからね、照れくさいことや、自分の感情を、素直に表現しやすいんだよ。』
「・・・」
『もう自分が話せた頃のことは、なかなか思い出せないけれど、でもね、私、話せた頃の方が、今よりも、自分を表現するのは下手だったと思う。
言葉が話せる とね、沈黙していても、相手はわかってくれてるだろう、とか、思ったりしちゃうのよね。でも、耳が聞こえないと、自分の指で、それらを伝えなくちゃいけな い、って思うのよ。
それこそ沈黙してたら、何も届かないからさ。あとね、言葉っていうのは、その口から、音声となって発せられるじゃない?そうすると、その音自体 に、注意深くなってしまって、それで何も言えなくなってしまう、ってことあるんじゃないかな?』
「・・・」
『どうしたの?あなたは両手で表現することもできるし、言葉で表現することもできるじゃないの?
全てを使って、全てを伝える努力をしなくちゃ。伝えなくちゃ、何もわからないのよ?何も始まらないのよ?』
そう言って、彼女は笑った。そして、最後に彼女の指はこう語った。
『人間はね、唯一、言葉でコミュニケーションすることができる動物なんだって。折角、人間に産まれたんだから、人間らしく生きなくちゃ!』
そう言って、ポンッと、私の肩に置いた彼女の手から、伝わってきた。
そうだ、私はまだ、彼に伝えるべきことがたくさんあるんだった。
ありがと!と言って、彼女に手を振り、私は彼の元へ走った。
もう迷うこともない。迷ったとしても、伝えよう。
今度は、伝わるまで伝えよう。両手と言葉と全身で。
彼女は耳が聞こえなくても、『口が読める』ので普通の高校に私と通っていた。
彼女が完全に耳が聞こえなくなった時、手話を覚えなくてはならなくなって、その勉強に付き合っていたので自然に、私は手話を彼女と同時に覚えた。
そし て、聞こえないことで不自由する場合、私は何の感情も持たず、彼女の耳となることを当たり前と思って助けながら接してきた。
私と彼女は高校を卒業し進学したのだが、大学は別になり、お互い思うところあって別々の大学へ通うことになった。ある意味、私たちは家族よりも多くの言葉を『指』で話した。
私は大学のサークルで知り合った彼と付き合うことになった。
彼女は自分のことのように喜んでくれた。私に彼氏ができて、彼女は将来、翻訳の仕事がした いと言って、大学の勉強以外でも勉強をしなくてはならなくて、今までのように、2人で会うことがあまりなくなってしまった。
今まで、私たちはあまり異性に感情を持つことがなかった。
どんな時も、2人でいることのほうが楽しかったし、充実していたからだ。
何故、ここで私が彼と付き合うようになったかというと、私のことを、彼女以外の人が興味を持ってくれたということに、喜びを感じたからだった。
彼はとても優しい人だった。私のことを気遣い、同じ歳とは思えないくらい大人の部分もあって、彼と一緒にいる時間は、とても心地よいものだった。
その反面、私はというと、彼に対して素直になれない部分があった。私は今まで、彼女以外に自分自身を曝け出すこともなく、自分自身のことを話すこともなかったからだった。
正直、どうしていいかわからなかった。異性への好きという感情に戸惑っていた。
彼女には素直に伝えられることが、彼には伝えられない。彼に「どうしたの?」と言われると、私は黙ってうつむくことしかできなかった。
時には、気持ちとは正反対の言葉を口にしてしまう場合もあったり、意味もなく冷たくしてしまったりすることもあった。
そんな時、決まって彼は、黙ったまま、困ったような顔をするのだった。そうなると、私はその場にいるのが苦痛になり、何も言わず、立ち去ってしまうのだった。
彼と、楽しいだけではない時間を過ごすことが多くなって、そんな中で、彼女と会う約束をした。
久しぶりに会う彼女は、耳が聞こえなくても、そのハンディを正面から受け止めて、以前よりもはつらつとしていた。
私がいない場所で、彼女がちゃんと生活している、ということが、ちょっとだけ寂しい、などと思うくらいだった。
『久しぶり!元気だった?』
「うん。それなりに・・・・」
『・・・何かあるみたいね?(笑)』
「ははは・・・、わかる?」
『そりゃわかるよ。長い付き合いだもの。どうしたの?』
「彼にどうやって接したらいいかわからないの。」
『というと?』
「好きなんだけどね、冷たくしちゃったりするの。素直になれなかったり。」
『なるほどね。それ、何となくわかるわ。』
「え?」
『私と一緒にいた時間が長かったからかな。いつも私には何でも話すけれど、他の人にはそうじゃなかったじゃない?』
「え?そうだっけかな?」
『ふふ。(笑)そうだよ。どうしてだかわかる?』
「・・・わからないや。」
『私とは、言葉で会話できないからだよ。』
「え?どういうこと?」
『私とは手話で会話するでしょ?だからね、照れくさいことや、自分の感情を、素直に表現しやすいんだよ。』
「・・・」
『もう自分が話せた頃のことは、なかなか思い出せないけれど、でもね、私、話せた頃の方が、今よりも、自分を表現するのは下手だったと思う。
言葉が話せる とね、沈黙していても、相手はわかってくれてるだろう、とか、思ったりしちゃうのよね。でも、耳が聞こえないと、自分の指で、それらを伝えなくちゃいけな い、って思うのよ。
それこそ沈黙してたら、何も届かないからさ。あとね、言葉っていうのは、その口から、音声となって発せられるじゃない?そうすると、その音自体 に、注意深くなってしまって、それで何も言えなくなってしまう、ってことあるんじゃないかな?』
「・・・」
『どうしたの?あなたは両手で表現することもできるし、言葉で表現することもできるじゃないの?
全てを使って、全てを伝える努力をしなくちゃ。伝えなくちゃ、何もわからないのよ?何も始まらないのよ?』
そう言って、彼女は笑った。そして、最後に彼女の指はこう語った。
『人間はね、唯一、言葉でコミュニケーションすることができる動物なんだって。折角、人間に産まれたんだから、人間らしく生きなくちゃ!』
そう言って、ポンッと、私の肩に置いた彼女の手から、伝わってきた。
そうだ、私はまだ、彼に伝えるべきことがたくさんあるんだった。
ありがと!と言って、彼女に手を振り、私は彼の元へ走った。
もう迷うこともない。迷ったとしても、伝えよう。
今度は、伝わるまで伝えよう。両手と言葉と全身で。




