ジリリリリリリリ・・・
暫くベッドの中でまどろんでいて、うつらうつらと朝日を目の前に、脳が覚醒していくのがわかる。その隣で陰になって見にくくなっていた目覚ましの文字盤。ガバッ!と一気に布団を剥いで、「遅刻!」と叫んだ。そんな自分の声に驚きながら、急いでキッチンに向かう。パジャマの裾を踏みそうになって、あわててズボンを捲り上げる。
コーヒーメーカーに水を入れて、スイッチを押す。それから、冷蔵庫を開けて、玉子をひとつと、パンを一切れ取り出す。パンはそのままトースターの中へ。タイマーは2分弱。玉子は小ボールの中に割って、そのまま放っておく。
キッチンの方に向かい直って、側面に掛けてあるフライパンを、コンロの上に置く。
コポコポコポ・・・という音と共に、コーヒー豆のいい匂いがしてきた。
朝食スタンバイ完了。
足早に洗面所へ駆け込み、ユニットバスの扉の段差に足の甲をぶつけた。イタタタタ、と片足ではねながら洗面台へ。目を覚ますために、ジャブジャブと顔を洗う。鏡に向かって、肌のチェック。うん、調子はまあまあ。
タオルを首にかけたまま、キッチンに戻って、コンロのスイッチをひねる。
ボールに移した玉子を、カチャカチャとかきまぜながら、リビングに移動して、テレビのスイッチを入れる。
背後で「チーン」という音と共に、パンが焼きあがった匂いが漂う。あわててキッチンに戻って、ボールの玉子をフライパンに移す。
玉子をかき混ぜながら、何か、残り物はなかったっけ、と、冷蔵庫の扉を開けると、タッパーに入っていたカレーに目が止まる。
『そうだ、今日の晩御飯、この間の残りのカレーにしようっと。』
出来上がった朝食を皿に移し、珈琲を片手に、ソファへと移動する。つけっぱなしだったテレビの画面は、世界水泳での新記録の話題で持ちきりだった。
ほんの2・3秒のよそ見で、パジャマの裾をふんづけてしまった。ガク、っと斜めに傾いた体の先の珈琲が、辺り一面に飛び散った。
次の瞬間、「ガチャリ」という音と同時に、目の前が真っ暗になった。
「ん?・・・珈琲の匂いがしないか?」
「え?珈琲ですか?・・・匂いませんけど...。先生、ここは無菌室ですよ?」
「・・・そうだったな。」
たった今、病室の扉を開けた瞬間、ほのかに香ったような気がした。
ふと、横を見ると、患者が眠っている。
突然、いつもの朝を迎えている最中に、倒れたまま、意識不明になったらしい。
そして今日までの約5年、原因不明のまま、回復する見通しもなく、ただ、眠るように、生きている。
『そういえば、この間は、カレーの匂いがしたような気がしたんだけれど...。』
そう思いながら、診察を終え、病室を出て行く。
静かに閉じられた扉の「ガチャリ」という音と同時に、彼女の視界が戻った。
辺り一面に、飛び散った珈琲の残骸。そうやってまた今日も、彼女の1日が続いていく。




