Another Side

日曜日

目が覚めたのは16:00を過ぎたころだった。
淡い期待を抱いて、まず部屋を見回してみるが、やはり無い。
気分が優れないのは体内に残っているアルコールのせいだけではないようだ。

昨日は友達の誕生日パーティーだった。
彼女の友達のアメリカ人も二人、ちょうど日本にきていて、英語の飛び交うパーティー~3次会までをすっかり楽しんだ私はいつものように明け方には酔いつぶれていた。
始発の時間を過ぎ友人Nに起こされて六本木駅に向かう。
空は快晴で朝日が眩しかった。

駅につきホームで電車を待っている間に自分がかばんを持っていないことに気が付いた。
財布と鍵はデニムのポケットにいれてあったため手元にあるが、読みかけの小説と愛用していたミュージックプレイヤーがかばんには入っている。
何より、あのかばんにはちょっとした思い入れがあり、私にとっては購入した価格以上の価値のあるものだ。

私はNに忘れ物をしたようだと告げ、一緒に店に戻り始めた。

途中、別な友人Tと合流し(彼も店で寝ていたようだ)3人で歩いていると彼が会計が異様に高かったと言い出した。
私のかすかに残っている記憶を辿ってみると、確か、今の店はカウンターで注文した都度、代金を支払っていたような気がする。
どうやら彼は、その会計をカード払いにし、店を出るときにまとめて清算したのだが、その額が想像していた額よりも高額だったらしい。

詳しい話を聞いていたNも、それはおかしいと言い出した辺りで店についた。

もうすっかり朝だと言うのに通りに出ていた呼び込みの黒人の姿を見つけたNは、流暢な英語で、私のかばんを探したいので店内に入らせてくれと頼んでくれた。
呼び込みの黒人は快く OK と言ってくれて店内を探させてもらうが、やはりかばんは見つからない。
一通り探してから、諦めて店を出ると、店先でNと呼び込みがなにやら言い合っている。
私は英会話ができないため、会話のすべてを理解することはできないがどうやら先ほどの会計について話しているようだ。
とりあえず、Nの横で事の顛末を見守ることにしてしばらく会話を聞いていると、店からカウンターにいたラテン系のバーテンと別な黒人が出てきて「会計は間違っていない」と説明を始めた。
それでも納得のいかないNが引き下がらないでいると、オーナーらしき黒人が出てきて「何を揉めているんだ」と会話に参加してきた。
慣れない英会話を理解することに疲れてきた私は、この辺りから会話の内容よりも、いかつい外国人4人に一歩も引かない彼女の姿に感心するだけになっていた。
このやり取りはその後も変わらず、しまいには「ここは日本だけど六本木だ。おれだって一晩で8万使ってしまったことがある」という話をしている。
天気がいいとはいえ春の早朝は冷える。
いい加減どうにもならないと見切りを付け始めた私は、呼び込みとしていた「寒いねー」「大変だねー」「難しいねー」といったどうでもいい会話をやめ、「今度きたらまけてね」とだけ日本語で言い、Nの腕を引いてなだめつつ帰路についた。

その後部屋に着いたのは8:00前だったような気がする。
そして16:00過ぎに起きたというわけだ。
 
 
 
 
月曜日

仕事を定時で終わらせた私は足早に駅に行き、新宿行きの電車に乗った。
無くしたと思っていたかばんは実は、先に帰った友人が自分の荷物と一緒に間違えて持っていってしまっていて、これから受け取りにいく約束になっていた。
昨日がっかりした分、一転してhappyになっていた私は小説も音楽もない状況に、多少手持ち無沙汰ではあったがいい気分で電車に揺られていた。

新宿に着き友人と連絡をとると、先についていた彼女は友達from Americaと買い物中らしい。
私がその店に着くと、ちょうど会計を済ませているところで、レジから出てきた友達はあいさつもそこそこに「ご飯まだでしょ?ちょっとだけ飲んでいこう!」と言った。
そうなるだろうと予想していた私が「どこにいく?」と聞くと返ってきた答えは

「ゲイバー!」

・・・?

「ゲイバー?」

「そう!S(友達from Americaの片方)が行きたいっていうから」

「あぁ。Sはゲイなんだっけ?」

「そう!」

「そうか。せっかくだしね。行ってみよう」

というわけで私は全く予想もしていなかったタイミングで2丁目デビューすることになった。
初めていった2丁目は、確かにそのテの店が多いことに驚いたが、なにより店自体がオープンテラスだったり、そこにいる男性客も自然体で楽しそうにしていることに驚いた。
正直、もっとローカルで閉鎖的な世界だと思っていたのだ。

店に着き、店内のカウンターで飲み物を頼んだ私たちは通り沿いの外の席に座ることにした。
狭い店内は割りと混んでいて、4人が座れそうなスペースはこの席にいた白人の初老のおじさん(ショーン・コネリー似)に相席を頼むしかなかったのだ。
おじさんはアメリカから来ている旅行者で、明後日帰るらしい。
そして村上春樹が好きらしく、手元のワインの横には読みかけの海外版の小説が置いてあった。

ここでも英語の話せない私は、基本聞き役になるしかないのだが、このおじさん、さすが紳士でときどき私にも質問をしてくれる。
そして私が知っているだけの単語を並べて答えた回答をなんとか理解しようとしてくれた。

普段、ここまで紳士に会話を頑張ってくれる外国人と出会う機会のない私は、つい楽しくなって、こちらから質問してみたりもして「英会話」を楽しんだ。

もちろん英会話のできる友人とおじさんが話している時間の方が長いのだが、そんな時は会話を聞いたり、疲れたらぼーっとしたり。
そんな風に過ごしていると、友人とおじさんの会話に、ちょくちょく私のことが登場しているような気がしてきた。
そして友人は「とてもハンサムだって言ってるよ」と教えてくれる。
始めは「さすが紳士。ちゃんとお世辞までいってくれるのか」と感心していたが、どうやら違う。
本気でおじさんのストライクゾーンに入ったらしい。
友人も私も、私がノーマルであることを伝えていたのだが、それでもそう言われると、こちらも嬉しい。
残念ながら需要と供給のバランスは難しい。

そうそう、2丁目デビューで驚いたことがもう一つあった。
それは、ゲイの人にはイケメンが多い、ということ。それもハンパないイケメンが。
これは外国では常識らしく(日本でも?)、かっこいい男性を見つけるたびに女性はがっかりすることが多いのだそうだ。
この店にも女性客が何人か来ていて、確かにこれなら納得がいく。

日本人とアメリカ人では好みが違うのだろうが、日本人的に見て尋常じゃないイケメン揃いのこの店で、おじさんがそう言ってくれたことは悪い気はしない。

その後も、おじさんを交えて楽しい時間を過ごさせてもらった。

さっきも書いたが、ゲイの人はとてもオープンだった。
おじさんに限らず、他の人も気さくに輪に入ってきてくれた。
これも、普段の居酒屋では体験できないことだった。
だいたい、あったとしても酔っ払いが絡んでくるくらいだ。
それが、ここでは、自然に会話を楽しむために入ってきてくれる(そもそもこの店に友達を増やす目的できていることもあるのだろうけど)
別に私がノーマルでも関係ないようだった。


 
私は地方出身者であるが、それでも東京にきて10年近く経つ。
新宿だって数え切れないくらいきている。

しかし、ほんの数百メートル先に全くしらない世界があり、そこにいる人たちはとても魅力的だったこと。
そしてしらないままでは間違った偏見を持ったままこれからを過ごして行きそうだったこと。
遥か遠くに住む友達ができるきっかけになったかもしれないこと。


とてもいい経験になった出来事だった。
 
 
 
 
 
 
※ この話はだいたいフィクションです。だいたいで聞き流してください。

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