友人であるA君は、いまでも大学時代のトラウマ体験が忘れられない。今でもふとしたときに思いだしてしまう。そしてその後の彼の人生にも、少なからず影を落としているみたいだ。
トラウマって言葉、普段使っているけど正確な意味を調べたくなった。
「外的内的要因による衝撃的な肉体的、精神的ショックを受けた事で、長い間心の傷となってしまうことを指す。外傷体験(traumatic experience)ともいう。これが精神に異常な状態を引き起こすと心的外傷後ストレス障害となる」
まあ、難しい事が書いてあったけど、要は心のキズってことだ。
彼は地方の田舎町から大学進学の為上京してきた。18歳。
入学すると同時に我々は友達になり、グループができ日々楽しく過ごしていた。学部も一緒だったものだから、同じ授業に出たりと一緒に過ごす時間が長かったと思う。とにかく、田舎から東京都心にやってきて一人で暮らし、親からの干渉からも解き放たれ、圧倒的な自由を感じていた時だと思う。あんな感覚は、大学1年生の春以外には絶対味わえない。是非とも自分の子供にも同じ圧倒的な自由を味合わせたいもの。
ちょっと話がそれたが、ある程度学校に慣れてくると大抵の学生達はやれ「誰が可愛い」だの、「同じ授業にいたあの3人組は誰だ」だの「今度あの子達と飲み会が出来ることになったぞ」といった話しになるわけだ。そんな事も3ヶ月も過ぎると大体人の名前も把握でき、相関図もでき上がってくる。狙ったグループは大体取り込んで、個人的に動く者も現れ出し、「誰と誰が付き合った」という時期に移行してくるものだ。
そんな中、我々の中で一番注目を集めはじめた女の子がいた。だれもが可愛いという意見でまとまった。ただ、我々はなかなか彼女への突破口を見いだせずにいた。なんとかチャレンジとばかりに話しかけるやつもいるのだが、簡単な受け答え程度でかわされてしまいいっこうに事態は進展しなかった。次第にそんな状況が彼女に「クイーン」というあだ名をもたらした。
そんな中、A君は彼女と少人数制の英語クラスで同じだった。30人程度のクラスで週2回一緒になった。座席も決まっていて、クイーンは出入口の近くにいるA君の斜め前方向の離れた窓側だ。元来シャイな性格のA君は、積極的にクイーンに話しかけることはなかった。というかA君はさほどクイーンのことは気にかけてなかったのかも知れない。
そんなまま、初めての試験時期を迎える。
休み明け早々に行われる試験課題を発表された授業の後、いつも通り帰り支度をし教室を出るタイミングでA君は呼び止められた。振り向くとそこにはクイーンが立っていた。突然の事と、まさか向こうから話しかけられる度ランク最下位のクイーンに呼ばれた事でA君は慌てふためいたそうな。
ク:「ねえねえA君、今日はもう帰っちゃう?」
A:「そうだね、もうこれで授業終わりだから帰ろうかなと思ってたとこ」
ク:「そうかー。そうだそうだ、この後って何か予定あるの?バイトとか?」
A:「そうなんだよ、今日はバイトがこの後あるんだよ。ていうかどうしたの?」
ク:「今日テストの範囲が発表されたでしょ。そのことで教えて欲しいことがあってね」
A:「ああ、結構範囲広いし、あの先生厳しいって有名だからね。ちょっとやばいよね」
ク:「そう。私ね、前に実家で用事があって2週連続で休んだことがあったの。そこが正に範囲でさ・・・」
A:「おお、確かにそれはまずいかもね」
ク:「うん。英語は必修だから単位落とすと大変だからなんとかしたくて」
A:「必修の単位落とすと、来年もう1回だから絶対避けたいよね」
ク:「なんだけど、クラスで聞ける人がいなくてさ。それでA君に思い切って声かけてみたんだ。ごめんねいきなり」
A:「いや、全然いいんだけどなんで俺だったの?ほら他にいっぱいいるのに」
ク:「まあ、一緒にいる子とかいるんだけど、あんまり聞きにくいところがあって・・・」
ク:「それにA君さ、4月からずっと真剣に授業聞いてるの見てたから、この人しかいない!って(笑)」
A:「それは光栄なことで(笑)。もちろんなんなりと協力するよ」
ク:「ありがとう!本当に助かる。いやー、私の人を見る目は正しかったよ(笑)」
A:「とはいえ、どうしようか?今日はちょっと難しいなー」
ク:「だよね。いきなりだから。そうだ、とりあえず電話番号とメールアドレス交換しよう!」
こうしてA君は、仲間内でだれもが突破できなかったクイーンの電話番号とメールアドレスを入手した。バイトに向かう道すがら、普通なら仲間内にこの事実を報告して自慢すべきことだが、どうしてだかA君は誰にも言わないことにした。
続く。




