できたら避けたい #1 〜部下がマドンナだった件〜 第7夜

できたら避けたい #1 〜部下がマドンナだった件〜 第7夜

「橋爪さん、あんたに話しがある!!」

気がついた時には勢い勇んで個室を飛び出していた。
橋爪さんが最後言った言葉なんて、途中から聞こえていなかった。後から思えばそんなスイッチが入ることなんて私の人生において滅多に無い事なんだけども、その時はなぜか自分でも理解できないほど瞬間湯沸かし機よろしく一気に怒りモードに入っていた。

橋:「おお、なんだお前、びっくりさせんなよ!」
私:「そんなの関係ないでしょ」
橋:「ていうかお前、いきなり飛び出して来て何喚いてんだよ」
私:「今の話、全部聞きましたよ」
橋:「ん?今の話・・・なんだっけ」
私:「とぼけないで下さいよ。最初から全部聞いてたんですよ」
橋:「ああ、小池の話か(笑)」
私:「そうだよ。小池のこと、好き勝手言ってましたよね?」
橋:「はは、好き勝手とはずいぶんな事言ってくれるじゃないの」
私:「好き勝手じゃなかったら何だって言うんですか?」
橋:「別に好き勝手なことを言ってる訳じゃなくて、事実を言ってるだけなんだがな」
私:「だからふざけるなって言ってるんだ!」

自分の怒りが更に自分を盛り上げてしまうなんて昔聞いた事があるけど、まさか自分がそういう状況になるなんて考えた事は無かった。これまで、良く言えば平和主義、悪く言えば事なかれ主義を貫いてきた私にはこんなシーンは縁が無かった。しかし、今、まさに真っ最中だ。そして抜いたこの刀は、今さら引っ込める訳には行かない。このときの私は、怒りのボルテージが最高潮に達していた。

橋:「お前、口の効き方に気をつけろ」
私:「関係ないだろ!」
橋:「文句があるなら言ってみなよ。全部聞いてやるからよ」
私:「だったら言わせてもらいますが、あんたね、あいつの気持ち考えた事あんのかよ。あいつがどんな気持ちで毎日を過ごしてると思ってんだよ。あいつは希望のこの会社に入る為に学生の頃から人一倍努力して来たんだ。目標を達成する為に遊びたい時期でも必死に勉強して、やっとの思いでこの会社に入社したんだよ。」
橋:「だからなんなんだ?」
私:「そんなね、やっとの思いで入社して、社会人としてこれからに夢いっぱいな時に、あんたみたいな適当な人に遊び感覚でちょっかい出されて、すっごい不安なんだよ」
橋:「適当な人?遊び感覚?ずいぶんなこと言ってくれるじゃない」
私:「新人があんたみたいな歳も上で地位もある人にいろいろ言われて、断るに断れないだろ?そんな事も分からないのかよ!」
橋:「それはあいつがそう言ってたのか?歳も上で地位もあるやつに口説かれて困ってますってお前に言ったってのか?」
私:「ああそうだよ!」

もう今さら後には戻れないほどの問答。普段こんな論争したことが無いだけに、このころは落とし所さえ見えてなかった。この後この事態はどう転んでいくのか?どんな結果になるのか?全く見えてなかった。とにかく、なんとかして小池からこのおっさんを遠ざけたかったのだろう。

橋:「じゃあ一つ聞かせてもうらうけど、さっきお前は俺が、何だ?適当だの遊びだのって言ったよな」
私:「ああ言いましたよ。その通りじゃないですか!」

橋:「俺が、本気だって言ったらどうする?」
私:「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
橋:「俺が本気であいつを口説いてるとしたらどうするつもり?それでも文句ある?」

私:「そんな訳ない!そんなの認めないぞ!」
私:「あいつは、見かけは確かに派手で誰からもチヤホヤされるかも知れない。男に苦労することが無いように見えるかも知れないし、軽く見られるかもしれないさ。でも本当のあいつは違うんだ!決して自分におごることも無いし、常に謙虚で、努力家で、浮ついたところも無い良く出来たやつなんだ。そんなあいつに、あんたみたいなプレイボーイが似合う訳ないだろ!あいつはな、あいつはな・・・・・・」


ガチャ、
「はいはい、そこまでそこまで」
その時トイレのドアが開いた。
誰かと振り返ると、石田純一ことグループマネジャーだった。
石:「はいはい、もう朝から何をヒートアップしちゃってんのお前は」
私:「いや、実は・・・・」
石:「話は向こうで聞くから、とりあえずついて来てよー」
石:「橋さん、すいませんねうちの若いのが。なんだか血気盛んというか、青春真っ盛りというか、勢いばっかりで。」
橋:「そうだよ、お前の指導はどうなっちゃんての?ええ!こんな礼儀もわきまえらんないヤツなんか辞めさせた方がいいぞ!いい加減にしろ」
石:「本当ですよね。すいません、頭でっかちで口ばっかり達者で困ったもんなんですよ。」
石:「ただね、それでもうちの大事な部下なんですよ!橋さんに辞めろ云々は言われる筋合いじゃないですから」
いつもはゆるーい石田純一が、突然語気を強めた。その場にいた全員が、一瞬で黙ってしまった。

石:「なーんて、ちょっと褒めすぎましたかね(笑)いづれにしても、こいつは預かりますね。橋さんにも失礼な口を効いたみたいなんで、私の方で指導させていただきます。ここはなんとか私に免じてお許しいただけると嬉しいですが」
橋:「ああ、いいよ。お前に預けるよ。ちゃんとしつけしとけよ」
石:「ああもちろんです。本当にご迷惑おかけしました。」
私:「いや、でも・・・・・」
石:「いいから!お前ちょっとついて来いよ。では橋さん、失礼しますね」

突然現れた石田純一により、一瞬で終演をむかえた。
石田純一に連れ去られる間際に、橋爪さんが僕に言った
橋:「お前、この件男としてのけじめはつけろよ。それと、、、」
橋:「お前が言ってた事、よくよく聞いたら小池の事好きだって言ってるみたいだな。1回自分でなんて言ってたか思い返してみろ。」


朝一のお腹の急降下明け早々のトイレでの大論争を終え、今は石田純一と会議室に座っている。
前に座ってる石田純一が何も言い出さないので、私も何かを言い出すきっかけが無く沈黙が続く。

対峙すること10分、ついに石田純一が口を開いた。
石:「別にお前のこと怒るつもりとか無いから」
私:「どういうことですか?」
石:「だってそうだろ、お前は自分の立場とか関係無く部下を守ったんだからね」
私:「そんなんじゃないです。ただちょっと頭に来て」
石:「でも結果はそういう事じゃない?」
私:「まあ、それは・・・」
石:「それに、お前ちゃんと部下の本質見抜いてんじゃない。大したもんだな」
石:「あいつはいかんせん、顔もいいし愛嬌もあるからさ、誰の下に付けるか悩んだわけよ。あういう生まれ持ってのナチュラルマドンナ気質なやつは最初の教育が大事だし、最初に誰の下に付くかで大きく今後に影響するわけよ。バカな男ならそのまんまの見た目に騙されて浮ついたりしやがるし、女の下に付けたら付けたで無駄なやっかみとかしやがって面倒が起こるわけ。だから、慎重に扱わないと後々みーんなアンハッピーになっちゃうの。そのとき一番アンハッピーなのは当のマドンナちゃんなんだけどな」
私:「そんな、自分なんて全然・・・」
石:「そうかな。悪いけど全部聞かせてもらったよさっきのバトル(笑)」
私:「全部聞いてたんですか?なんともお恥ずかしい限りです」
石:「全然。お前、ちゃんと小池の本質見抜けてるじゃない。だから、お前に付けて良かったって言ってんの。」
石:「まあ、そんなお前を教育係に任命した俺が一番人を見る目があるってことだな(笑)」

石:「しかしあれだな、お前、本当に小池の事真剣に考えてんだな。だからこそ、小池もお前を信頼してこんな言いづらい相談したんだろうな。こんなに真剣に考えてくれる上司を持って、小池も幸せもんだな」

この頃、私は気付いていた。橋爪さんにも、石田純一にも言われたようにいつの頃からか本当に小池の事を真剣に考えてたようだ。そして絶対に守らなくてはならないと無意識に考えていたようだ。そして小池から頼られる事にも知らずに嬉しさを感じていたのかも知れない。だからこそあそこまで頭に来たし、あそこまで食ってかかってしまったのかも知れない。知らず知らずに。そして後悔は全く無かった。この後、会社での立場が悪くなるかも知れないし、仕事がしづらくなるかもしれない。それでもいいと思えてた。どこか、霧が晴れたような、見通しの良い滑走路状態だった。

石:「とは言え、会社の大先輩に食ってかかったんだから、このままってのは良く無いよな。橋さんも言ってたけど、男としてはけじめを付けた方がいいのは間違いないな。方法はいろいろあるから、やり方は任せるぞ」
私:「分かりました。じゃあ、今からけじめつけに行くんで、見てて下さいよ」

何か分からない、圧倒的な根拠の無い自信に後押され、やるべきことは一つしか無かった。
会議室を出て、自分の席に向かった。そう隣には小池が座っているのだ。恐らく、今朝の橋さんとの一件も耳に入ってるだろうし、それによって不安になってるに違いない。だからこそ、一刻も早く小池の元に行きたかった。

私:「おい、小池!」
小:「先輩・・・・・」

私:「お前に話さなくちゃならない事があるんだ。」
小:「はいっ!」


<完>

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