できたら避けたい #1 〜部下がマドンナだった件〜 第6夜

できたら避けたい #1 〜部下がマドンナだった件〜 第6夜

目覚まし時計が鳴る。時刻は7:30。

昨夜の小池からの相談を聞く会は結局3:00までに及んだ。
全てを相談してからの小池は、すっかり安心したのかそれはそれは楽しげに酒を飲んでいた。
気がつけば時間は3:00を過ぎており、さすがに私から切り上げて帰ったのだ。

洗面所で写る自分の顔はものすごく疲れた顔をしていた。というかあきらかに飲みすぎた顔だ。
「あの女、飲めるとは思っていたけどあそこまでとは。ザルかよ」
独り言を言いながら出社の準備をした。

ホームに滑り込んで来た電車はいつものようにほぼ満員状態だ。
「俺、まだ酒臭いんじゃないのか?」とフリスクを10粒一気食いしたら、さすがに辛くて涙が出てきた。
「何やってんだ」とひとりごちながら満員電車に乗り込んだ。

電車にゆられながら、昨夜の話を反芻する。
確かに小池の話には憤りを感じた。ただそれに対してかなり男前な事を言ってしまった自分がいる。夜中に書いた手紙は朝読み直せと良くいうが、手紙だけではないなと強く感じる。ちょっと、カッコつけて言い過ぎたかと反省をしつつも、どこかで強い決意というか揺るぎない気持ちというか、つまり腹を括ってしまった男になっていた。恐らくこの電車の中で間違いなく「腹を括った男ランク1位」だと自信がある!なんてくだらない事を考えてしまう。

とはいえ、どうしたものか。
この問題の最善の解決方法はあるのかと頭をひねってみる。
整理点
その1、そもそも当事者のうちの片一方の話しか聞いていない状況でもう片一方に食ってかかる事が良いのか?
その2、そもそも小池の言ってる話はどこまで本当なのか?
その3、そもそも小池の言ってる話が本当だとして、解決担当者は俺なの?教育担当者というだけで?
その4、そもそもなんて言ってこの問題を解決できるの?「小池にちょっかいださないで下さい」と正面突破?
その5、そもそも平社員の俺が食ってかかって大丈夫な相手?その後の俺、どうなる?会社にいれるの?
ざっと思い巡らすだけでも、俺八方塞がりな感が全開だである。普段仕事でやれ戦略だの手法だのインサイトだのとこねくり回してるくせにこんな時に一切の道筋が立てられないとはなんともお恥ずかしい限りであるが、現状は間違いなく見通しの悪い滑走路だ。

しかしだ、昨夜の小池のあの不安な顔を見てしまった以上、後には引き下がれないしあいつには楽しい社会人生活を送らせたい。それに任せろと言った時のあの安心した笑顔はリポビタン2000よりも効くドーピングだ。

しかしだ、橋爪さんに議論で打ち勝てるはずがないじゃないか。相手は百戦錬磨の橋爪さんだ。どの角度から切り取っても無理じゃない。逆に追い込まれて俺のガラスのハートは木っ端微塵になるだろう。

しかしだ、男たるもの一度引き受けた以上引き下がれない。。。

しかしだ、橋爪さん怖い。。。。

しかしだ、しかしだ、、、、、、

あーーもう分からん!というかどうしたらいいんだ。なんて自分で自分を追い込んでいるうちに胃腸が悲鳴を上げ始めたじゃないか。
「昔からプレッシャーに弱いんだよな」なんて感傷に浸ってるうちに事態は急変している。いつもにも増して急降下をしている。

やばい・・・・

あと2駅、そこから会社までは歩いて5分、そこからエレベーターがすんなり来るとしてオフィスまで2分。
過去の経験からしてもギリだ。もしくはアウトな線も否めない。

私はこんな仕事をしていながらとにかくプレッシャーに弱く。基本的に腹が痛い。
その昔は、バイクの教習所で卒業検定の順番待ちの時点で急降下し試験をパスした。
その昔は、合唱コンクールのステージ上で緊張の為全3曲のうちの2曲も持たなかった。

そうこうしてる間に降りる駅に到着。第一関門突破。
あとはソロソロと早歩きで人ごみをかき分けビルまでたどり着くこと。
しかしいつも思うが、人生でこんなに急がなくてはならない事態なのに決して走れないのがお腹の急降下のジレンマ。アップダウンを繰り返す波をよく読み、引き潮の時は大胆に進み、満ち潮の時は慎重に進む。知らず知らずにすり足で進む姿はとんだお笑い草だ。

ビルに到着し、あとはエレベーターでフロアにたどりつくのみ。しかしこのエレベーター待ちの時間こそが一番の危険タイム。もう少しだという油断がとどれくらいでエレベーターの扉が開くのかが分からない永遠に続くような1秒1秒の中が判断を狂わせ、ダムが開放しそうになる。

なんとかフロアに到着し一目散に個室へ直行。完全に危機一発だった。間に合った。この安堵感はこれまでの人生の危機を乗り切った戦士に与えられる至福の時間だ。永遠に続いて欲しいとすら思う人生の花畑。

ガチャ

だれか入って来た。
小学生の頃から個室にいる時に誰かが入って来るとなぜか嫌な気分になる。そして無駄に気配を消してしまう変な癖がある。

ガチャ
もう一人入って来た。

社員A:「あ、橋爪さんおつかれっす」
橋:「おーう。おつかれい」
A:「橋さん、最近忙しいんすか?」
橋:「ん、まあまあってとこかな」

なんと橋爪さんじゃないか。誰と話してるかは分からない。まさかこんな状況で遭遇するとは。厳密には遭遇はしていないが。

A:「相変わらず夜は街に繰り出してんすか?」
橋:「当たり前でしょ。こんな仕事してるからには遊びこそが最大の情報源だからな」
A:「さすがっすね。いつかそんなセリフ言ってみたいっすよ」
A:「あ、そういえば前に言ってたあれ、その後どうなんすか?」
橋:「あれって、なんの件だっけか?」
A:「やだな、とぼけないで下さいよ。あれですよ、前に言ってた狙った獲物の件ですよ」

なんの話だ。狙った獲物?(私、心の声)

橋:「あー、あの新人ちゃんのことね」

新人?まさか!(私、心の声)

橋:「あれがなかなかどうしてね。もっと簡単に攻略かと思ったんだけどよ、意外と難航中よ」

簡単に攻略だと!!(私、心の声)

橋:「ただな、もうちょいだな。頑固なのに限って1回こっちを向かせりゃその後は楽勝なんだよ」

ふざけるな!!(私、心の声)

橋:「それにな、あいつは何よりいい女だ!あんな上玉なかなかいねーからな。絶対にいただ・・・」

ガチャ、

私:「橋爪さん、あんたに話しがある!!」
最後の言葉を聞いたかどうかは覚えていないが、気がついたときには個室から飛び出していた。

続く。

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