できたら避けたい #1 〜部下がマドンナだった件〜 第3夜
目覚ましが鳴り薄い意識の中で時計を見る。6:30。いつもより1時間早い起床だ。一瞬なんでこんな時間に・・・と思ったがすぐに昨夜の決意を思いだした。今日はいつもより早く出社して小池が本当にみんなのデスクを掃除しているのかを確かめるんだった。だが、昨夜ケンコバと飲みすぎたきらいがあり、正直まだ寝ていたい。そもそも小池が本当に掃除をしていたとして、それを見てどうなるというのか?と、しばらくの間葛藤したが決めたことは決めた事だと思い体をひきづるように布団を出た。いつものようにテレビを付けて目覚ましテレビが流れるが、さすがに1時間早いだけあって見慣れないコーナーをやっていた。
7:00、家を出て駅までの10分間の距離を歩いていくとたかが1時間早いだけで世界はまるで別物だ。空の色も違えば気温も違う。いつも掃除してるマンションの管理人のおばちゃんもまだいない。なるほど、早く起きるのも悪いもんじゃないなと一人ごちながら駅に到着。だが改札を抜けてホームに降りるときにちょっとした後悔をした。1時間早い時間の電車はいつもの時間よりはるかに混んでいた。ただでさえいつも混雑している電車に乗るたびに嫌な気持ちになるのに、この時間はいつもの3割増しといったところだ。そうは言っても乗るしかないので強引に車両に体をねじこむ。
「あーこういう混んだ電車ほんと嫌だな。なんでこんな電車にギュウギュウにされてんだろ俺・・・って、やべ、まだ迷いが出てんなー、いい加減慣れろ!」といつもの自答。
超満員な電車に揺られながら、昨夜のケンコバとの会話を思いだす。小池は毎日誰よりも早く出社して、人知れずみんなのデスクを掃除している。誰に言われるでもなくだ。片や社内一のプレイボーイ橋爪さんが小池をマジで狙うと公言したらしい。そして、小池が頼れるのは俺だけ・・・と。うーん、で、だからなんなんだ?この引っかかる微妙な感じは?昨夜は飲んだ頭だから良く分からないと思ってたが、朝一のフレッシュな脳みそでも良く分からんな。
8:00、会社に到着。広告業界というのは得てして朝は非常に遅い。10:00頃にようやく出揃う感じだ。毎日夜が遅いという理由でマネジメントも文句は言わないのだ。
エレベーターのドアが開き、フロアに降り立ってもいつもの喧騒は無い。またもや新鮮さを感じながら部署のある扉に近づく。本当に小池はもうこんな時間にいるのだろうか?とこの期に及んで半信半疑でガラス張りの扉から部屋の中を覗くと、いた。ケンコバの言ってた通り、ひとつひとつデスクの掃除をしていた。実際にその姿を見ると、確かに楽しそうに一生懸命にやっていた。これもケンコバの言ってた通りだ。
どれぐらいそうしていたのか、気がつけば小池が掃除して回る姿に釘付けになっていた。何やってんだと自分に言い聞かし、そろそろ中に入るかと思った。さあなんて声をかけるか?「お、偉いなーお前!」とベタに行く方向か、「お前、いい奥さんになるな!」とちょっとからかう方向かと一人ニヤニヤしながらドアに手をかけたまさにその時、小池の手が止まった。そして振り向く。どうした?と思った矢先、プレイボーイ橋爪さんが現れたのだった。
橋爪さんの登場で、私は部屋に入るきっかけを失った。仕方なく二人のやりとりを陰から見ることに。扉を挟んでいるから声は聞こえないが、表情と口の動きを見る限りとりとめのない会話をしているのだろう。小池の表情はいつもの笑顔な受け答えパターンだし、橋爪さんもいつも社内で女子社員に話しかけている時の表情だ。恐らくギャグの一つも交えながらの会話なんだろう。見る限り特に危ない感じはしないなーと思った矢先、ふと橋爪さんが小池に近づき耳元で何かを言っている。一瞬ビクッとした小池は、笑顔自体は崩していないがいつもの表情と比べると明らかに固さというか強ばった感じというか、どっちにしても「嫌がっている」表情だ。その、辛そうな悲しそうななんとも言えない表情を見た刹那、私はドアに手をかけ部屋に入っていた。頭より先に体が反応したようだ。二人は同時にこちらを見て、会話を止めた。私は私で部屋に入っていったはいいが、頭がまだ追いついていないので、どうしていいのか分からない。
小「お、おはようございます」
プ「お、おう。なんだお前珍しく朝早いじゃないか!なんだ春なのに今日は雪でも降るか(笑)」
私「なんとなく早く起きてしまったんで、たまには早く来てみただけですよ。」
私「それよりも橋爪さんこそ早いですね。いつもこんなに早いんですか?っていうかここで何してんすか?」
私「営業に何か急ぎの用事でもありました?」
プ「ま、まあな、でも大丈夫後でまた出直すから。じゃあそんな感じでまたな」
私「はーいお疲れさまです。何かあったら言ってください」
どことなくぎこちなさと気まずさを残しつつプリンス橋爪は自分のフロアに戻っていった。結果的に追い返してしまった感じになっちまったけどこれで良かったのか・・・とやや後悔。
ふと小池の方を振り返ると、どことなく不安気な今までみたことの無い表情で私を見ていた。
私「おはよう。お前早いなー」
小「そうですかね。一応新人なんで早く来るようにしてるんですよ。」
さっといつもの笑顔に戻った小池。
小「それより先輩こそどうしたんですか?珍しいですねこんな時間に」
私「まあな、なんか早く起きちゃってな」
その日もいつも通り小池の研修を行った。今日はより実践的なお客様に対する電話の応対や案件の説明をするフローなどがメニューだった。実践的な内容になっても小池は相変わらず優秀だった。決して慌てることもなく、かといって横柄な事もなく、あくまでナチュラルに物事をこなしていた。この小池の優秀さに感心しつつも、今朝彼女が見せた不安気な表情はなんだったのか?やはり橋爪さんが既に行動を起こしていて、彼女になんらか働きかけてるのだろうか・・・などと研修に集中できなかった。そんな中でも本日のメニューを終え、私は通常業務に戻った。
小池には研修後に簡単なデータの打ち込みや文字校正といった作業をさせて早めに帰らせることにしている。最初からあまり遅くまで働かせても仕方ないし、そのうち嫌でも遅くまで働いてもらう事になるから、早く帰れるうちは早く帰れというのが私の方針だ。
私「おい小池、今日のところは今やってる打ち込みが終わったら帰っていいぞ」
小「は、はい、でも他に何かやることがあったら言ってください」
私「大丈夫大丈夫。いいから早く帰りなよ!な」
小「でも、、、分かりました。これだけは終わらせます」
その後も小池は中々帰らなかった。気にはしていたが私も今取り掛かってる企画書に集中していたのでついそのままにしていた。
しばらくして、私の作業も終えデータを保存していた時、メールが届いた
From:小池
件名:おつかれさまです!
本文:先輩お疲れさまです。お忙しいところ申し訳ございません。急で申し訳ないのですが今日このあとお時間あったりしますか?もしお時間があるようでしたらご相談したい事があるのですがいかがでしょうか?時間も時間ですのでお食事がてらでも結構です。よろしくお願いします。小池
From:私
件名:Re:お疲れさまです!
本文:了解。
続く。





