できたら避けたい #1 〜部下がマドンナだった件〜 第2夜
新人教育係を拝命し、まさかの女子侵入社員を担当する事になってしまった私。しかも、どうやらこの新人小池は社内で話題の人物になっている。
確かに、見た目はそこらのタレントなんかより可愛いのは事実だろう。それでいて新人らしからぬ言葉遣い、立ち居振る舞い、また愛嬌の良さにより日ごと小池人気は高まる一方であった。
ただ、それは教育係の私としては頭の痛いことに変わりはない。
日ごろの「小池ショック」をまとめるとこうである。
曰く、「小池ちゃんとさー、歓迎会を兼ねて飲みに行こうよ!」全く関係ない総務部男子29歳
曰く、「こんどうちの部署で飲み会やるからお前も来いよ!新人と一緒にさ」デザイナー男子33歳
曰く、「おい、今度クライアントと一席設けるから来い!小池くんも一緒にな」隣の営業部課長44歳
曰く、「先輩、小池さんって彼氏いるんですか?聞いて下さいよ!!」2年目営業男子24歳
曰く、「お前、小池ちゃんの教育係をマネジャーに志願したらしいな!」同期男子社員
曰く、「あの娘、甘やかして教育してるんじゃないの?厳しくするのよ」先輩女子社員30歳
曰く、曰く、曰く・・・・・
もうどういつもこいつも好き勝手言いやがって!たった1週間でこのざまだとしたら、この先1年間どうなるんだよ。完全に、これは、つまり大問題である。
とはいえ、外野の声はそれとして私には教育係としてに任務があるので、日々自分のミッションをこなしていくしかない。
実際、教育を始めてみるとこの新人小池は確かに優秀だった。教えた事で同じ失敗はしないし、言葉遣いもしっかりしている。この年頃のやつは大抵最初こそ緊張感を持っているが、慣れて来ると言葉遣いが乱れてきたり無駄に先輩に対しての距離を詰めてきたりするものだが、小池はそれがなく常に緊張感を切らさず先輩との距離をきちんと保っていた。回りの社員達がその見た目から興味を持つのとは別に、私はこういう新人らしい姿勢に好感を持つようになった。あくまでも先輩として、である。
もう一つ小池に感心したところは、回りがこれだけ自分に関心を示して話題になっているのにも関わらず全くそれに奢るところを見せないところだ。普通、先輩社員からあれだけ構われなんならチヤホヤされたら、少しは調子にのる素振りを見せそうなものだが、そんな片鱗は一切なかった。入社1週間でこれだけ話題になるのだから、これまでの高校生活やましては大学生活なんぞではさぞ注目を浴びてたであろう。普通はその中で無意識に培われた「チヤホヤされ慣れ」が出るはずなんだが。
ある日の夜、仕事が早めに終わったこともあり久々に同期ケンコバと軽く飲みに出た。この小池ショックで少なからず疲れていたので久々にゆっくり飲みたかったのと、私の知らないところでの小池話を聞いてみたかったのもあった。
ケ「いやーすっかりお前も有名人だなー!"あの小池ちゃん"の教育担当として(笑)」
私「お前ケンカ売ってんの?こう見えてもそうとう大変なんだからな」
ケ「何をおっしゃいます旦那。毎日毎日小池ちゃんと一緒にいれて楽しいんじゃないの〜?」
私「お前までそういう事言う訳?もういい、帰る」
ケ「冗談冗談!そう怒るなって。」
私「二度とそんな事言ってみろ、お前の体の穴という穴をエポキシパテで埋めてやるからな」
ケ「はいはい、分かりました。で、実際のところどうなの?あの子は」
私「実際な、かなり優秀だと思うよ。覚えは良いし、調子に乗るところは無いしな」
ケ「普通あれだけチヤホヤされたら調子に乗るもんだがな。たいしたもんだな!」
私「そうなんだよ、そこが大したもんだなと思うところな訳よ」
ケ「毎朝部署みんなのデスクを拭いている姿を見たときには、思わず後ろから抱きしめたくなったね。」
私「何それ?あいつそんなことしてんの?」
ケ「お前知らなかったの?俺が徹夜明けでデスクで仮眠してたらさ、8時前頃出社してきて全員の席拭いてたんだよ」
私「まじかー。遅刻ギリギリに来る俺には分からないってことか」
ケ「あの楽しそうに、黙々と掃除してる姿には正直目が釘付けになったぞ」
私「なるほどね・・・」
その後しばらくは、会社の愚痴やら最近のトピックやらを話ながら2時間程飲んだ。お互いにビールから始まり今は焼酎に移っていた。そこそこに酔いが回ってきたところでケンコバが急に神妙な顔つきをしながら口を開いた。
ケ「お前、ちょっといいか、言うかどうか迷ってたがやっぱりお前の耳には入れておくが・・・」
私「なんだよ?嫌な話か?」
ケ「まあ、嫌というか・・・まあ注意しておくべき事って言うかな」
私「なんか怖い気もするが、話せよ」
ケ「テレビ部の橋爪さんいるだろ」
私「ああ、知ってるよ。あの社内きってのプレイボーイって有名な(笑)」
ケ「そうだ。あの名実ともに社内一のプレイボーイの橋爪さんだ」
私「それがどうした?」
ケンコバの表情が一瞬曇る。こいつが本当に言いづらい事をいうときに良く出す表情だ。
ケ「その橋爪さんとこの間飲んだんだよ。その時に、小池ちゃんを狙うって言ってたんだよ」
私「なに?まじで言ってんのか?だって橋爪さんって確かもうすぐ40歳だろ?それが22歳を狙うか?」
ケ「普通は、そんな大人は狙わないわな。ましては橋爪さんくらいのやりてなら尚更な」
私「だったら・・・・」
ケ「だからこそなんだよ。あのおっさん、人を見る目だけは異常に長けてるんだよ。さっきお前が言ってた小池ちゃんを買ってるポイントを、あのおっさんも早々に見抜いたってことだよ」
私「だからって・・・歳の差考えたら・・・」
ケ「だから、小池ちゃんはその差を埋めるに値するほどの人物だって事なんじゃないの?」
私「・・・・・・・・・」
ケ「あのおっさん、言ったことは必ず実現、狙った獲物は逃さないが座右の銘だからな。しっかりしてるとは言えあのおっさんにかかれば小池ちゃんなんて赤子同然、軽くいなされちまうだろうよ」
私「それならそれでいいんじゃ・・・」
ケ「バカ、本気で言ってんの?もしそんな事になってみろ、社内では橋爪さんの女として見られちまって一気に風当たりが強くなるんだぞ!これからがんばろうっていう新人にそんな称号が付いていいことあるか?お前、そんなこと教育係として絶対許すな!あの子の為だ。分かったな!」
その後はまたいつものケンコバに戻り、得意の下ネタを交えたギャグをいいながら陽気に飲んでいた。私も一緒に笑って聞いてはいたが、あまり頭に入らなかった。
24時が近くなり、店を出て地下鉄の駅へ向かう。ケンコバは結構酔ってしまったらしく呂律が若干回らなくなっていた。ふらふらしたケンコバとホームに付き共に終電を待つ。ケンコバと私はそれぞれ逆方向の電車だ。先にケンコバの電車がホームに入って来た。
ケ「おおーじゃあまた明日なー!遅刻すんじゃねーぞ」
私「それはお前だろ!」
ケ「まあ確かに(笑)」
ケ「お前、さっきの話忘れんじゃねーぞ。あの子にとっては頼れるのはお前だけなんだからな!」
そう言い残して電車はホームを去った。私の電車はあと10分は来ない。
今日の話を思い返す。ケンコバから聞いた橋爪さんの話は正直驚いたが、驚いただけじゃないなんか妙な感じが残って引っかかっていた。なんなんだろうと考えるが、酔った頭ではどうも上手く整理できない。
あーもう面倒だから今日はこれ以上考えるのはやめだ。この1週間で疲れてんだな。とりあえず明日は朝一で会社に行って、あいつが朝デスクを掃除している姿を見てやろうじゃないか。とりあえずそこからだ。
そんな結論を引っさげながら、ちょっと空いてる地下鉄に乗り込んだ。
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プレイボーイ橋爪さん
つづく




